イーノックカウに着いた日は、東門の外のロルフさんちにある僕のお部屋に泊めてもらったんだよ。
でね、朝起きたらストールさんに馬車で冒険者ギルドまで送ってもらって、そこでロルフさんが雇ってるって言う冒険者さんたちに会ったんだ。
「ルディーン様。この者たちは当家と専属契約をしている冒険者パーティー、深緑の風ですわ」
ストールさんに紹介されたのは4人の男の人たち。
その中でも一番年上っぽい、体の大きな人がニカッて笑いながら僕にご挨拶してきたんだよ。
「俺がリーダーのラッセ・バリアンだ。よろしく」
「ルディーン・カールフェルトです。8歳です」
僕が自己紹介をすると、バリアンさんは自分のあご手で撫でながら、
「話には聞いていたけど、ほんとにこんな小さな子なんだな」
なんて言うんだよね。
バリアンさんたちはね、昨日のうちに森の奥までベニオウの実を採りに行くんだよって聞いたんだって。
でね、その時に僕の事も聞いたそうなんだけど、でも実際に見てみるとほんとにちっちゃかったもんだから、びっくりしたみたいなんだよね。
「ルディーン君はこのようにまだ幼い子ですが、グランリルの村出身で森の探索も初めてではありません。ですから、連れて行ったとしても何の問題もありませんよ」
「ああ、それも聞いている。だが実際にこの目で見るとな」
それを聞いたストールさんが、ちっちゃくても森に入るのはなじめてじゃないから大丈夫だよっと教えてあげたんだよ。
そしたらバリアンさんはそれは解ってるけどやっぱりちょっと心配だなって、後ろにいるパーティーメンバーの中から一番若い男の人に声を掛けたんだ。
「おい、エルシモ。この子はお前に任すから、絶対にケガなんかさせるなよ」
「俺ですか? はい、解りました」
その日とはバリアンさんにそう返事をしてから僕の前まで来てしゃがむと、
「俺はエルシモ・アルシ・ボルティモって言うんだ。よろしくな」
そう言って僕の頭をなでてくれたんだ。
ボルティモさんはね、ちょっと前に抜けた人の代わりにこのパーティーに入ったばっかりなんだって。
だから他の人たちがお父さんより年上っぽいのに、自分はまだ19歳なんだよって教えてくれたんだ。
それにね、他のメンバーはパーティーのランクとおんなじCランクらしいんだけど、ボルディモさんだけはちょっと低くってまだEランク何だってさ。
「そっか。だからみんなおじさんなのに、一人だけお兄さんなんだね。あっ! でもそっか。って事はボルティモさん、ヒルダ姉ちゃんとおんなじ年なんだね」
そう言えばヒルダ姉ちゃん、僕の11個上だからボルティモさんとおんなじ歳だっけ。
そう思った僕は、その事を教えてあげたんだよ?
そしたらボルティモんさんはちょっとびっくりした後、
「ヒルダ姉ちゃん? ああ、君のお姉さんか。同い年のお姉さんがいるのなら、俺とも仲良くできそうだな」
同い年のお姉ちゃんがいるんだったら、今日ずっと一緒に居ても大丈夫だねってにっこり。
「うん! よろしくね、ボルティモさん」
こうして僕は、今日一日ボルティモさんと一緒に行動する事になったんだ。
ストールさんとはそこでお別れして、早速森へと出発。
今日は森に行くって事で僕はブラウンボアの皮で作ったジャケットを着て、足には前にお父さんに買ってもらった皮ひもをぐるぐる巻く防具を着けてるんだ。
でね、腰にはいっつも使ってる片手剣をぶら下げてるだけって言う装備なんだけど、
「ねぇ、ボルティモさん。みんなそんなの着てて、重くないの?」
深緑の風の人たちはみんな、ブレストプレートに金属製のグリーブを履いてるんだよね。
それにね、中にはちょっとおっきな盾を持ってる人までいるんだもん。
だから僕、ほんとに大丈夫? ってボルティモさんに聞いてみたんだよね。
「確かに少し重いけど、今日は森の奥へと分け入る予定だから防具はしっかりと揃えておかないと」
そしたらさ、今から行くとこはとっても危ないから、ちゃんとした防具を着てかないとダメなんだよって。
でも、そんな重そうなのを着てったら大変なんじゃないかなぁ?
今から行くベニオウの木が生えてるとこは川の上流の方にあるから、行きはずっと上り坂なんだよね。
そりゃあ、山に登るのとは違うからそんなに急な坂じゃないけど、あんまり重いと大変だと思うんだけど。
「皮の防具の方がいいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、金属鎧に匹敵するほどの皮装備となるとこの街ではなかなか手に入らないからなぁ」
ボルティモさんたちもね、普段は軽い革鎧を着てるんだって。
でも今回は森の奥へ行くでしょ?
そんなとこにいる魔物相手でも大丈夫な革鎧はあんまり売ってないからって、みんな金属鎧を着てくんだってさ。
「それにリーダーたちはともかく、俺の稼ぎじゃ売っていたとしても買えないけどな」
「そうなの?」
「ああ。このパーティーに居れば素材の皮は何とか手に入れる事ができるだろうけど、その素材を扱えるほどの職人に頼むとなるとそれだけでもかなりの金がかかっちまうからな」
新緑の風はね、ロルフさんが専属契約してるくらいだから森の奥の方にいる魔物だって狩る事があるんだって。
でもね、強い魔物の素材は加工も大変だから、腕のいい職人さんに頼まないと防具にする事ができないでしょ?
そう言う職人さんはかなりお金を出さないと作ってくれないから、皮だけあってもダメなんだよってボルティモさんは僕に教えてくれたんだ。
「おいおい。その言い方だと、森の奥にいる魔物の皮なら簡単に手に入るようにルディーン君が勘違いしてしまうだろうが」
「あっ、いえ。そう言うつもりでは……」
そしたらさ、リーダーのバリアンさんが僕たちのお話を聞いてたみたいで、皮だってそんなに簡単に獲れるわけじゃないだろうって笑うんだ。
「簡単に獲れないの?」
「ああ。こいつが言うような装備に使うとなると、この近くの森ではツリーホーンハインドクラスになるだろうからな。俺たちでも、そう簡単に狩れる魔物ではないよ」
「そうなんだ」
そのツリーホーンハインドってのがどれくらい強いのか解んないけど、バリアンさんは体がおっきくて強そうだもん。
そのバリアンさんが大変って言うんだから、きっととっても強い魔物なんだろうなぁ。
「そして狩るのが大変な魔物だからこそ、その素材も高く売れる。だからそんなもの、もったいなくて俺だって自分の防具にしようなんて考えないんだぞ? ましてやお前がその皮で防具を作れるって言うのか?」
「無理ですよね」
「ああ、よく解ってるじゃないか」
そう言って、おっきな声で笑うバリアンさん。
そしてそんなバリアンさんを見ながらエルシモさんは、ちっちゃな声でこう言ったんだ。
「でもいつかは俺だって上等な革を使った装備を……そう、たった一部位でもいいから手に入れてやるんだ!」
ルディーン君はよく知らない魔物なので、ツリーホーンハインドをとても強い魔物だと勘違いしました。
でもこの街の冒険者のレベルって、グランリルに比べたらはるかに低いんですよね。
だから当然それほど強い魔物ではなく、ルディーン君ならもう一人で狩る事ができるブラックボアと同等程度の魔物です。
でもこう書くと弱そうに思えますが、実際はバリアンさんの言う通りかなり強い魔物に分類されるんですよね。
一応お兄ちゃんズだと一人では挑まない程度には強い魔物ですからw